【巻頭エッセイ】

「指揮官率先」

                   日本文化チャンネル桜代表 水島 総

この三週間、チャンネル桜では、「プロジェクトJAPAN/NHKスペシャル・シリーズ
『JAPANデビュー』第1回『アジアの“一等国”』」を「告発」し続けて来た。
「JAPANデビュー」が偏向番組というだけでなく、放送法に完全に違反し、なおか
つ、中国の歴史プロパガンダ戦略の先兵として、台湾併合の情報操作を為してい
たからである。

NHKが「中国中央電視台日本支局」として内部から変貌している姿は、未来の
日本の姿である。
ここまで来たのかと背筋が寒くなる思いなのだが、日本国民にはこの深刻な状況
がまだ実感されていない。
いや、戦後保守論壇の人たちにも、単に過ぎた「偏向番組」としてしか見ていない
方も多い。

中国だけでなく、何処の国においても、狙った国の謀略プロパガンダ戦略は、相手
国の政財界にスパイを送り込み、自国に有利な工作を為すことは自明の理なのだ
が、それ以上に力を入れるのが、相手国のマスメディアに入り込み、それを秘かに
支配し、影響下に置くことなのである。
既に完全にNHKは中国共産党の影響下に入ったと言っても過言ではないだろう。

無論、NHKの職員全員がスパイと言うわけではない。
しかし、無意識の内に、自分では反戦平和を希求するヒューマニズムの実践なの
だと思いながら、中共の手のひらの上で踊らされている報道製作部門の職員や
幹部たちが多いのも確かなのだ。

そして、この「プロジェクトJAPAN」は三年続くそうだが、「シリーズ『JAPANデビュー
』」で使われているオープニングタイトルバック映像に、番組の悪辣な企画意図が
はっきりと露出しているのである。

実は、この番組のタイトルバック映像は、「サブリミナル効果」等の公共放送では
禁じられた手法を使い、旧社会党流の反日親中「反戦平和」路線を、無意識のうち
に視聴者へ刷り込もうとする印象操作を行っているのである。
これは放送法違反であり、これだけでもNHKの首脳陣と製作陣の首が飛ぶ重大な
「犯罪」なのである。

特に許し難いのは、このタイトルバックで、さまざまな悲惨な戦争映像のショットの
真ん中に、ヒットラーやスターリンと同列に、大元帥姿の軍服の先帝陛下を登場さ
せたことである。
戦争を指導し、悲惨な結果をもたらした政治指導者として、昭和天皇を軍服のお姿
で国民に印象付けようと狙ったのである。
先帝陛下を戦争犯罪人や残忍な独裁者と同列に並べて、「戦犯」扱いする印象操
作を行ったのだ。
これだけでも「万死に値する」犯罪行為であり、彼らの悪質ぶりが露呈している。

本篇の中身も、事実誤認だらけである。
NHKは日本李登輝友の会の抗議声明や公開討論会を求める書簡に対して、「偏
向も事実誤認もない」と突っぱねて来た。
これは自分で墓穴を掘ってくれたのである。
「台湾人は漢民族」「公務員格差」問題等々、私達は事実誤認の証拠をあまるほ
ど持っている。
徹底的に追及し、中国共産党プロパガンダ機関と化したNHKの実質的解体を目指
して動いていくつもりである。

ここで、私達が肝に銘じておかねばならないのは、単なる偏向番組非難の大合唱
で終わってはならないということだ。
彼等は、自らの歪んだ意識で、「右翼的な国民から抗議を受けただけで、アジアと
日本の平和への『信念』を曲げてはならない」と考えるだけだからだ。
私達は様々な「犯罪的事実」誤認を明らかにし、指摘し、きちんと提示して、偏向し、
中国共産党プロパガンダ機関と化したNHKの実態を暴露しなければならない。

繰り返すが、この証拠は十分すぎるほどある。

私達チャンネル桜では、「JAPANデビュー」が放送された後、直ちに台湾取材の準
備を進めて、台北へ井上和彦「防人の道」キャスターと取材陣を送り込んだ。
そして、「JAPANデビュー」に登場した皆さんにインタビューした。
日本の台湾統治をNHKがネガティブな面だけを取り上げて放送したことに、出演し
た知日派台湾人達が、一様に驚きと不快感を示していることを報道した。
柯徳三さんら知日派台湾人が、まさに筋金入りの反日家として登場したのである。
放送後、彼等は古い日本の知人、友人達から、詰問や非難が殺到して困惑したら
しい。

NHK製作陣の超偏向や放送法違反の「犯罪」について指摘するのは、他の人々や
別な機会に譲ることも出来るだろう。
しかし、この巻頭エッセイで述べておきたいのは、「親日」「知日」派と呼ばれる台湾
の人々についてだけでなく、私達「親台湾」派と呼ばれる日本人の在り方について
である。

まず、私達は現在の台湾の政治的、経済的状況をしっかりと把握する必要がある。
そして、その現状を踏まえ、知日派、親日派と呼ばれる台湾人がどのような立場に
あるかを理解すべきなのである。

つまり、言論の自由を謳歌出来た李登輝、陳水扁総統時代とは異なり、現在は国
民党政権の時代になっているという現実である。
いわゆる「台湾独立派」と呼ばれる人々にとっては、李登輝総統登場以前の自由
の無い白色テロの時代の再来の恐怖が現実化している状態なのである。
台湾の「言論の自由」は危機にある。

まして、彼等は八十歳を超えた年齢であり、自分の子供や孫の世代の世話になっ
ている。
彼らの発言が、どれだけ彼らの家族たちの生活に影響を及ぼすか心配し、恐れる
のは当然のことである。

かてて加えて、近い将来、中共政府による台湾併合も予想される状況である。
彼等が「政治的」に「中立」になるのは、当然である。
それでも、彼等はあんなにも「親日的」な言葉を話してくれたのである。
頭が下がる思いである。

今回の取材で、私達取材陣が気づいたことがある。
熱血漢キャスター・井上和彦さんが、親日的コメントを引き出そうと統治時代への
感想を人々に求めると、以前の民進党時代は、素直に親日感情を吐露してくれた
老人達が、一様に口ごもり、「政治的なことは言わない」とか、「……悪くない」とか、
曖昧に笑ってごまかしたりする人が多かったことだった。

無論、確信的に親日を断言する老人もいたが、口が重くなり、言葉を慎重に選ぼう
としていることは間違いなかった。
いわゆる2.28事件で数万人以上、一説には十万人と言われる国民党政府による台
湾人虐殺や白色テロが、未だ生々しい記憶として、彼らには残っているのである。

NHKに登場し語ってくれた老人たちは、台湾の超エリートたちであり、私達の想像
以上の知性の持ち主たちである。
政治的配慮が加えられた「中立」コメントは、無理からぬことだと考えるべきである。

同時に、戦後日本の「親台派」が、口では親台湾を言いながら、実際には、自分た
ち台湾人を全く保護もしてくれぬ「へたれ日本人」達であり、都合のいいときだけ、
自分たちに「親日言辞」を要求するという、「冷徹」な認識を持っている知的エリート
台湾人であることを忘れてはならないのだ。

しかし、繰り返すが、それでも彼等は勇気を持って、戦前の日本統治の良さを語っ
てくれたのである。

私達は何と自分勝手で、他人の行為や勇気、善意、犠牲に甘える現代「へたれ」
日本人なのだろうか。それを痛感するのである。

台湾親日派の老人たちは、生命の危険、生活の危機さえあるのに、勇気ある発言
をしてくれた。

私もそれに学ばねばならない。
私は、御礼を込めて、台湾へ取材にいくことを決めた。

暗殺の危険を言って止める人もいる。
確かに現在の台湾には、中共の工作機関が多数入り込み、「南京大虐殺」否定
映画製作やNHK「JAPANデビュー」徹底追及を実行しているチャンネル桜代表を
狙う可能性もかなりある。
強盗や交通事故を装った手法がとられる可能性もあると、専門家からもアドバイ
スを受けた。
それでも私は行こうと決めている。

旧日本軍の戦死は、士官や佐官クラスの人々が多かったそうで、兵隊ばかり戦死
して、士官以上の戦死が少なかった支那軍と対照的だったそうである。

「指揮官率先」―― 私はこれを日本人らしい美風と考え、常に実行していくつもり
である。
「草莽崛起」は、先ず自ら始めよ、である。

私が畏敬する西郷南洲の言葉に「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人
は、仕抹に困るもの也。此の仕抹に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業
は成し得られぬなり」(「南洲翁遺訓」より)がある。
命あるかぎり、「仕抹に困る」日本人でありたいと思っている。

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