【巻頭エッセイ】

「真夏の夜の悪夢」

                   日本文化チャンネル桜代表 水島 総

いよいよ三十日に衆院選挙の投票が行われる。
各新聞は、民主党の三百議席獲得の可能性を報じている。
おそらくそうなるのだろう。
この事態の本質は一体如何なるものか、改めて考えてみた。

まず、これは日本という国の大転換であることは間違いない。
以前にも触れたが、現象面では民主党による政権交代だが、その意味する
ところは、もっと深刻で根底的なものだ。

戦後六十余年、二千年以上の古来より続いてきた日本という世界最古の
国柄が、いよいよ現実的に解体、消失し始めたということだ。
「日本」に代わり「ニッポン」あるいは「JAPAN」という国がデビューしようと
している。

すなわち、我が国の歴史の中で初めて、ソフトな形の「易姓革命」が行われ
ようとしているのである。

同時に、これは敗戦後、GHQ(連合国司令部)が推進した、日本を日本たら
しめぬよう、国家無き国家ニッポンに変える戦略の徹底と完成である。
つまり、戦後日本が六十数年にわたって進めて来た「易姓革命」の実現で
あり、政治思想面から言えば、実は旧社会党の左翼社会主義者たちが
夢想して来たソフトな「平和革命」の実現でもある。

すなわち、かつてイタリア共産党のグラムシが提唱し、社会党書記長江田
三郎(江田五月参院議長の父親)が日本で主張した「構造改革路線」による
「平和革命」である。

この構造改革革命思想というのは、高度資本主義社会の様々な分野に、コ
ミュニストが静かに浸透して、その分野のヘゲモニー(主導権)を奪い、革命
への準備段階を積み上げながら、最後は議会において合法的に権力を
奪取していくという「平和」革命路線である。
その路線グループと、小沢一郎を筆頭とする親中似非保守集団(旧自民党
田中派グループ)とが結合したのが民主党なのである。

もっとはっきり言えば、旧田中派グループの本質は、ソフトな「ファシスト」集団
であり、その集団と、民主党書記局を牛耳り、政策形成を行っている旧社会
党系の親中ソフトスターリン主義者のグループが野合しているのである。
つまり、ソフトファシスト集団と旧社会党系スターリン主義集団との結合が、
民主党の思想的本質と言ってもいい。

この結合が何を生み出すのか。
ずばり、共和制である。
つまり、皇室を廃絶し、大統領または「総統」を元首とする日本共和国の
実現である。

もっと先の将来には、中共政府を中心にした大アジア人民共和国連邦へ
の道である。
この政権の背後に中共政府が大きな存在として登場するのは明らかだが、
この道は、自民党政権時代の日米安保体制から、米中による日本共同
管理時代の過渡期を経て、東アジア共同体から大アジア(人民)共和国連邦
へと進んでいくだろう。

民主党の本質的体質であるソフトファシズムとソフトスターリン主義は、実は
現在の中国共産党の体質に近似しているのだ。
だからこそ、彼等はファシズム国家である中国の体制に違和感や嫌悪感が
ないのである。

日本国民は、最低最悪の自民党の自堕落体質を嫌悪する余り、ソフトなオブ
ラートに包まれたファシズムとスターリン主義を選択しようとしているのである。
これはワイマール共和国時代にヒトラーのナチスドイツを選んだドイツ国民の
選択と共通している。

まさかという人もあろうが、彼等が三百議席以上を取れば、何が起こるか見て
いればよい。

さて、一番、わかりやすい近似例は、台湾である。
台湾国民はせっかく李登輝総統時代に獲得した政治的自由を、民進党陳水
編政権の腐敗によって、「生活第一」と中共宥和平和路線を掲げた国民党を
立法院でも総統選挙でも選び、今、その「自由」を失いつつある。

以前から私は、蒋介石国民党政権は、大陸時代から「ファシスト」集団として
活動して来たのであり、その国家社会主義的体質は最もナチス(国家社会
主義労働者ドイツ党)に近いものだと主張して来た。
つまり、国共合作の本質は、ファシストとスターリン主義者の野合であるとの
主張をして来たのだが、今、この日本において、ソフトファシストとソフトスタ
ーリン主義者の野合政党が、日本の国家権力を合法的に奪取せんとしてい
るのである。

台湾が国民党政権に代わって起きたことは、新聞テレビメディアをはじめと
する政財界各分野への中国資本の進出であり、支那人の台湾移入である。
そして、恐るべきことに、言論や表現の自由が次第に圧迫されるようになっ
て来ており、思想統制が徐々に強まっている。

私は台湾取材において、肌でそれを感じた。
民進党時代とは明らかに違って、「もの言えば唇寒し秋の風」から、もの言え
ば、死と暴力の恐怖感へと移行しつつあると感じたのである。

日本に目を移して見ても、民主党が秘かに準備していると言われる図書館
法改定や人権擁護法案、外国人地方参政権等を見れば、民主党の体質が
「自由」と対立する政党であることが、朧げながら、おわかりいただけるかと
思う。
こういう民主党のファッショ的、スターリン主義的体質については、保守論壇
のどなたも言わないようだから、敢えて述べておく。

もう一点、戦後日本の経済面から述べておく。

吉田ドクトリンから始まった軽武装商人国家の思想が蔓延し、日本が経済
発展を遂げると、大多数の日本国民が、納税や国防の基本的義務を忘れ、
国家をまるで生活サービス機関のように考えるようになった。
国民のレベルと同じく、「生活第一」か「安心、責任」かと、どちらが得かだけ
を売り物に争う、金まみれ物まみれの「二大政党」の政治家たちの姿も、
同様に、あまりに情けなく卑しく浅ましい。

吉田ドクトリンから始まった戦後日本の政治が、外交安保はすべてアメリカ
に任せ、国家予算を自分の手で差配、分配し、利権を得ようとする行為だ
ったという視点で見れば、所詮、もっとよこせと要求する国民に、分配をもっ
と増やすと約束するだけのものであり、「政権交代」と言ってみても、旧福田
派(自民党)から小沢、鳩山、岡田、渡部等の旧田中派(民主党)への利権
構造の移動に過ぎない。

しかし、郵政民営化問題ひとつとっても、約三百五十兆円と言われる国民
の郵貯、簡保の虎の子資金を誰が支配、差配するかは大変な問題である。

ちょっと前に、鳩山総務大臣と西川日本郵政会社社長との間で、どちらが
辞める辞めないの争いがあったが、あれはわずか百九億円と言われる
簡保の宿売却の問題などではない。
三井住友グループ出身の西川氏とその株主であるゴールドマンサックスと
その背後にいる米国政府(その代理人が竹中、小泉ライン)が、三百五十
兆円を「運用」と称して米国に流出させて自由にするか、または鳩山氏と
その背後の金融グループの方にその差配権を奪還するかの恐るべき
「経済戦争」だったのである。

麻生首相のブレとビビりは、この国家予算を倍する資金争奪戦のものすご
さ、背後勢力への恐怖から生まれたものなのだろう。
情けないことである。

思想面からも、経済面からも、日本が置かれた危機、そして売国奴たちが
跋扈する現在の日本の絶望的状況の一端を感じていただけたと思う。

敢えて、繰り返させていただく。 

私たちには、絶望が足りない。
私たちには日本が足りない。
私たち日本には真実の情報が足りない。

この秋から、日本文化チャンネル桜への内外からの圧力とバッシングは、
ますます増大するだろう。
しかし、どんな絶望的状況になっても、私と日本文化チャンネル桜は、
日本と日本人を信じている。
日本人の底力を信じ、日本唯一の自由で独立不羈の草莽放送を守り抜く
決意である。


 『つひに諸侯恃(たの)むに足らず、公卿恃むに足らず、草莽の志士を
  糾合、義挙の外にはとても策これ無きことと、私共同志申し合せ居り
  候ことに御座候。失敬ながら、尊藩も弊藩も滅亡しても大義なれば
  苦しからず……』 (久坂玄瑞の武市半平太への手紙より)


共に歩まれんことを。   


  秋の野に 鈴鳴らしゆく 人見えず   川端康成

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